まだあなたが好きみたい
どきっとしたのは、いつになくその視線が気迫を帯びていたからだ。
……マジで?
一瞬、白井とマンツーでやってる景色が脳裏をよぎった。
白井の口が動く。
心臓がひときわ大きな音を立てた。
ボールの弾む音までが聞こえてくるようだ。俺は抜かれない。でも白井との対決ならきっと燃えられる。鮮やかな想像は尽きず、否が応にも匡の胸を高鳴らせた。
しかし。
物言いたげな瞳に対し、一度ゆるみかけた口は閉ざされるといっそう頑固になり、言葉までとはついに至らなかった。
有正を見送ると、白井はあっさり踵を返して体育館へといってしまった。
(……まあ、ないよな)
そんなことがあるだろうかとすこしでも期待した自分が恥ずかしい。そんなキャラじゃないだろう。
「行こうぜ」
呆然と白井の背中を見つめていた俺を、夏原の声が現実に引き戻した。
屈託ない視線を見つめるうち、心が次第に平らかになっていく。
逆上せていた自分が落ち着いて、乾いた笑いがこみ上げてきた。
(俺、ダセぇ)
なんだ、今の生ぬるい白昼夢。冬だってのに。
匡は髪に触れた。根元が少し湿っている。風が吹き、寒さをいきなり意識した。
夏原が気持ちを汲んで肩をたたいてくれる。
俺には、これで、十分だ。
「――おう」