まだあなたが好きみたい
「ほかのやつらもすげーよ。スタメン狙って毎日全員でしのぎを削ってる。あの頃は俺、女子の目を気にする余裕がちゃんとあったもんな」
思わず噴いてしまった。
そういえば陸上部は性別関係なしだ。バスケは男バス女バスが確立してる。
無理もないが、うちの練習ではかっこつけていられる余裕はない。
「白井が思うチームってのがどういうのか知らねぇけど、実際、チームに不向きなやつなんていないと思うよ。きれいごとじゃなくな。仲間意識に重きを置いた練習は楽しくて感性を養うけど、勝ちに拘るチームならたぶんそれだけじゃダメだろ? もちろん欠けすぎててもダメなんだろうけど。
だからそのためにも目指すところがあった方がいいのは確かなんじゃないか? ピラミッドの頂点を目指すなら、てっぺんがいないと成立しないだろ」
チームを意識し相互に高め合おうとする白井。
それに相反する孤高の匡。
夏原はその両方を一定評価しながら、しかしその両方に改めるべき粗があると指摘する。
それは彼の中学時代での経験が下地になっているのだろう。
仲良しこよしも大事。だが、そこにもしひとりでも突出した人がいたならば、状況はもっと変わっていたかもしれない。
そういう複雑な思いが先ほどの告白には滲んでいたような気がする。
(だとしたら俺はそのてっぺんにいるってことか)
悪い気はしない。匡は思った。
己の悪い点を棚に上げ、匡はただ自分のスタンスが夏原に理解されたことがうれしかった。
そうだ。目指すものがあってこそ、チームはバネを得て、より勝ちに強いチームになれるんだ。
そのために俺が傲慢になることも、あるていど必要な要素じゃないのか。
いや、そういうのが白井はきっと不服なんだろう。
自分がそういう感覚に馴染めないから。
それならそれでいいじゃんか。謙遜は美徳だろ。
(やっぱわかんねぇ、白井って)
ネクタイの位置を直し、匡はロッカーを閉めた。