まだあなたが好きみたい
「そういやさっきの人、白井をシラリンって呼んでた、あの人すごいね。なんつーか、怖いもの知らずっつーか、底なしっつーか」
「ただ空気読めないだけだろ。中学からそうだった。いつもへらへらして、あの口調で、教師からも生徒からも煙たがられた」
「そうなの? でもまあ才能だよあれも。見た目ではわかんないけど、すげぇ肝っ玉がでかいんだろうな」
どうだろう。
そう言われればそうかも知れず、そう思えば大層聞こえもいいけれど、どのみち活かされていないのだから微妙なところだ。
(それに、人に垣根を持たないって意味の才能だったらあいつなんかよりはるかにおまえのほうが持ってるって)
それは俺が保証する。
だって、おまえは俺にこうして声をかけてくれるだろ。
そんで、俺はおまえに心を許しそうになってるだろ。
それって、すごいことだよ。
俺は、俺に遠慮することにためらいがない、もしくは心で反発しててもいざとなると気兼ねと気後れが先に立つような連中には固く自分を閉ざしてきた。
夏原が言ったような、足並みを揃えた楽しい部活には憧憬を抱いたことがなかったから。
俺はエースナンバーが欲しかったし、一度もらえばほかの誰にも渡すつもりはなかった。
だが、それでも折に触れて、唐突に寂寥を感じたり、輪に混ざれないことを惨めに思う瞬間がなかったわけじゃない。
夏原は、そんな俺が求めていた理想の話し相手だった。