まだあなたが好きみたい


男は鼻白むとぐっとアゴを引いた。


相手が高校生だということを思い出したのだろう。


こんなことくらいで警察に話を持ち込んでも、おまえが譲歩しろよ、とたしなめられ、かえってやぶへびになるだけだとは目に見えている。


菜々子は微笑んだ。



「どうやらその意思はないようなので、わたしたちはこれで失礼します」

「シラリン、ばいびー」

「おー」

「待てよ!」

「あっ、ちょっと!」



窪川が夏原の手を振り払って菜々子たちの下へ駆け寄ってきた。



「助けてやったのに、また礼の一つもなしかよ」

「は? 助けてなんて言ってないもの。かってに割り込んできたのはそっちでしょ」

「俺が助けなかったらぶたれてたんだぞ! それでもよかったって言うのか」

「かまわないわ。だって覚悟してたもの。そう誘導するようなことも言ったし。それに、もし殴られて怪我したら、わたし、あのしょうもないおっさんから慰謝料だって取れたのよ。費用対効果じゃないけど、我慢するだけの価値はあった!」

「ハッ! なんて女だ! 金さえもらえればなんでもするってのか」

「そうは言ってないじゃない。あくまでただの可能性よ。わたしは有正が大事なの。有正を泣かせるやつはただじゃおかないって決めてるのよ、幼稚園から! だからよ! それで殴られるくらいどうってことないわ。その先の利益を思ったら十分な仕返しができるもの。

ちょっとはここ、使いなさいよね!」


菜々子が頭を指差すと、窪川は悔しそうに顔をしかめた。

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