まだあなたが好きみたい
吉と出るか凶と出るか
翌日、匡は元カノの睦美に呼び出されて武道館へと続く渡り廊下に立っていた。
気まぐれな風が頬を打つ。
いくら柱に身を寄せても気休めにしかならなくて、匡はせめてもと風上に回って彼女を庇う。
正直、もう二人きりで話すことはないと思っていたから、声をかけられたときは驚いた。
別れ話を切り出されたときはあまりに大人びた潔さで匡も思わず舌を巻いたけれど、その後、彼女が意図して俺を避けていることは薄々感づいていた。
無理をしていることはわかっていたから。
「ごめんね、急に」
「いや、いいけど」
「驚いたよね」
問われて、匡は急に返事に困った。
驚いたと、正直に答えていいものかと思ったのだ。
これがもしよりを戻したいという意味の呼び出しだったとしたら、何の考えもなしに驚いたと言えば取りようによっては俺にもまだ脈があると取られかねないし、その逆もあると懸念したためだ。
しかし睦美はそれを見透かしたようにくすりと笑った。
「安心して。また付き合ってとか、未練じみたこと言うつもりとか、ないから」
「……悪い」
匡は頭を掻いた。
恥ずかしい。俺、今すごい思い上がった。
匡は視線を冬枯れたグラウンドへと転じ、気持ちを整えた。
まったく、調子が狂う。
彼にとって、睦美はいまだにわがままでねだるのが器用な好みの女だった頃の印象が強く頭に残っている。
だからこんな気を遣った物言いをされると、どうしていいかわからなくなるのだ。
「いいよ。多分そう思われるかもって、だいたい想像ついてたし」
「なんか、あったのか?」
匡が訊くと、睦美は暫し逡巡するように押し黙った。