まだあなたが好きみたい

交わらないもの、見守るもの



学校のある市街地に住んでいる友人に誘われて話題の映画を見てきた帰り。

冬休み真っ只中とあって、電車は日中でも常にない混みようだ。

菜々子は仕方なく席を譲り、目星をつけたおばさんの前に立ってすでに3つの駅を見送った。

どうやらはずれの模様である。


しかし今さら身動きもできず、菜々子はポールに掴まったまま過ぎ行く景色を眺めている。


山と集落とが交互に続く寂れた車窓。


見飽きた景色は退屈すぎて、次第に心が眠っていく。


すると菜々子の脳にはまたしてもあの日の情景がよみがえってくる。



ファミレスでの有正の稀に見る真剣な顔。


礼を言わない菜々子に憤慨した窪川の赤い顔。


どうしてそれほど礼を言われたいのだろう。


わたしに感謝されて、過去を清算したいのだろうか。


単にそれが常識だから? だとしたら相当女々しいやつだと思う。



(でも、頑固にありがとうを言わないわたしも、わたしか)



たとえばあの場に有正がいなかったら言えただろうか。

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