まだあなたが好きみたい
菜々子は冷徹な眼差しで言って、鼻を鳴らした。
「今さら何を言ったって、あなたの言葉なんか入ってこないし」
綿をちぎったように頼りなげな雪片がひとつ落ちてきた。
気まぐれのようなそれを先触れにして、みるみる視界を雪の帳が覆っていく。
もうどこにも夕明かりは見当たらない。
「……おまえも、よっぽどだぞ」
失意にふるえる声が、不覚にも彼女の胸を衝いた。
菜々子はぐっと拳を握る。
「それって最高の褒め言葉よ。だってお互い様でしょ?」
踵を返しかけ、ああ、と菜々子は思い出したように顔を上げた。
「もしさっきのがほんとなら、有正に聞くだけ聞いてあげる。OKなら、あの線路に抜けるフェンスになにか目印をつけておくから」
それだけを言うと、菜々子は今度こそ公園を後にした。