まだあなたが好きみたい
家に向かって歩き出し、しかし数メートルも行かないところで、公園を囲むヤツデの陰からそろりと人影が現れた。
けれど、今度は警戒することなく、むしろ自ら人影へと近づいていく。
「盗み聞きはさすがにどうなの?」
「だって心配だったんだよ」
菜々子の詰問口調にもその人はへらへら軽薄な調子で言い返す。
有正だった。
気に入りのピーコートに、デニムに包んだ細い脚、革のブーツ。
顔だけでなくファッションセンスも抜群の有正のことを、菜々子は心底惜しいと思う。
同じ方角へと歩を進めながら、有正はふと真面目な口ぶりで、
「こないだのさ、ちゃんと菜々ちゃんの返事を聞いてなかったから。ね? もし万が一の流れになったら妨害しなきゃと思って。準備してたんだよ」
「そんな必要ないから。あのときはあんまりいきなりで返事ができなかったけど、わたし、たぶんあの時点で心の中では誓ってたの。もうあの人とは関わらないって。今回はたまたま待ち伏せされててうまく回避し切れなかったけど、でも見事に対処したでしょ?」
有正は肩をすくめた。