まだあなたが好きみたい
「んだとてめぇ……っ!」
語気が恫喝のそれに変わったとき、菜々子はおもわずくっと身構えた。
撲たれる―――
目を逸らした。
しかし次の瞬間、菜々子の耳に、弱い舌打ちの音が届いた。
恐る恐る目を開けて状況を確認する。
と、なにやら苦いものを呑み込んだような渋い横顔が、そこにはあった。
小刻みにふるえる拳。理性を総動員して必死でなにかを堪えているような血走りかけた双眸に、菜々子はほっと胸をなで下ろすと同時に、してやったりと、こころの奥でほくそ笑んだ。
今にも地団駄を踏みそうな様子で、彼はかろうじて声を絞った。
「それで、チャラになるんだな?」