まだあなたが好きみたい
心を決めるとき
ありがとうございました、と二人は降りたばかりの窪川家の車に向かって頭を下げた。
はじめて目にした窪川の父は、本当に血がつながっているのかと思うほど人のよさそうな朴訥中年男だった。
菜々子たちを乗せてやってくれと息子がいきなり言い出しても笑顔ひとつで承知してくれて、そのうえ有正にジュースまでおごってくれた。
寒くないかと何度も気づかってくれて、ブランケットをすすめられたときは、有正にはめずらしく、しどろもどろに首を横に振ったぐらいだ。
傲慢な息子から描かれる一方的な父親像との隔たりにおののいたのだ。
菜々子もそうだが、有正はことさら毒気の抜けた様子で終始借りてきた猫のようだった。
有正は大抵の人間に対し、軽んじた見方から付き合いをはじめるが、そんな彼が肩透かしを食らって、人並みに怖じ気づいたのはおそらくこれがはじめてのことだ。
窪川の父だからと高を括っていたのは火を見るよりも明らかだったから、そこへジュースを渡され、ブランケットを貸そうかと言われて、徹底的にペースを乱されたのは想像に難くない。