まだあなたが好きみたい
でかい態度を取ることが許されるだけの才能との天秤がかろうじて釣り合っている鼻持ちならない息子を半分形作っている遺伝子の持ち主には到底見えないその落差に、ふたりは最後まで暗中模索の気分だった。
走り去る車を見送りながら、有正はまだどこか落ち着かない表情で言った。
「隔世遺伝なのかな、あの性格……」
「さぁ」
『ですから、何度も申し上げているように挨拶なんて結構です。それより、今回の件に関与した男子生徒の皆さんに学校を移っていただけないかどうか、先生のほうから主任の先生に進言していただけませんか?』
――母の痛切な申し出は、おそらく彼女ひとりの願いではなかっただろうが、日ごろは保守に走りがちな教師陣をめずらしく突き動かし、果たして確かに受理されると、ほどなく履行された。
学年にとって目の上のたんこぶだったとりわけ悪質な集団は窪川を残してみな離散した。
一人は親戚がいるという県外へ、残りは編入を受け入れてくれた私立の中学へ。
菜々子と窪川を中心に巻き起こったタチの悪い騒動の真相を知るものは当時の生徒の中ではごくわずかしかいない。
そのごく僅かのうちの一人も今は県外に住まいを移し、新たな生活を送っていると聞く。