まだあなたが好きみたい

だがやはりそれも偶然が助けて、彼は謹慎処分だけで済んだのだが、だからといって罪深い計画に加担していた事実は事実。


菜々子は窪川を恨んだ。

憎悪した。

嫌悪した。


……でも、灰の中の熾火に似て、知らず残っていた好きだと思う赤い気持ちは不思議と学校を離れてから、すこしずつ彼女の中に戻ってきた。


だから、自分でもまだよくわからないのだ。

一度は灰の底に埋もれたはずの気持ちだから。

あんなことがあったのにという背徳心もあったし、彼なんかをまだ、と思う悔しい気持ちもあった。


いろんな思いがない交ぜになって、どう扱っていいのか戸惑い、持て余さずにいられなかった。



――そういうわけで、窪川に対する思いには恨みと、相反する思慕が同居しているけれど、事実、彼の父にまでそれが影響するほどには菜々子は心を痛めていない。


菜々子の両親はちがっても、彼女自身は彼の両親の誠実で義理固い姿勢にむしろ良心を咎めたのだ。

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