まだあなたが好きみたい
息を切らして尾田(おだ)は現れると、それで? といきなり首尾を問うてきた。
気のせいか、どことなく高揚しているように見えるのはいい返事を期待してのことだろうか。
窪川は穿ちそうになって、とたんに及び腰になる己を叱咤した。
「あー…うん。聞いてみたんだけど、今は彼女を作る気がないって」
思い切って言うと、尾田は、……ああ、そっか、とつぶやいたきり、その先の返事を考えあぐねたらしく、目の下のやわらかいところをあてもない様子で掻いていた。
「悪かったな。引き受けておいて」
窪川が言うと、親友はやや妙な間があってから、
「い、いやっ、だいじょうぶ。気にしないで。わざわざ聞きに行ってくれてありがとね」
どこかあたふたした口ぶりで、さらに有り体な感じで言えばとってつけたようにそう言った。
窪川は申し訳なくて自分に苛つきつつ、一方で、尾田のよそよそしい様子を不審に思った。
「俺、もう一回聞いてみようか」
「え?」
尾田は露骨に驚いた。
「いや、だから、もう一回有正に聞いてみようかって」
落胆を見せまいと気を張っていることが彼女の様子をおかしくしているのだと匡は思った。
しかし次の瞬間、尾田は風を起こすほどぱたぱたと手を振ってこれを断った。
「い、いいよそんな」
「でも」
「いいって。そういう気がないならしょうがないし。何回言ったって変わらないよ」
そのとき匡は気づいた。
尾田のせわしない視線の先に、柱に隠れるようにして、睦美がこちらを窺っているのに。
なるほど友人を待たせているからか。そういうことなら。