まだあなたが好きみたい
「おまえがいいなら、いいんだけど」
匡が引き下がると、明らかにほっとしたように尾田は頷いた。
「うん。ありがと。じゃあ、また明日ね」
「あ、ああ……」
なにかがおかしいと思いつつ、しかしそれがなんであるかをうまく言葉にできないもどかしさに苛立つ匡へ、尾田は、そこでもなぜか妙にすっきりした笑顔を見せた。
そして睦美のいるほうへ駆けていく。
呼び止める言葉など持ち合わせてはいなかった。
釈然としないものが胸に残ればどうにも気持ち悪いが、急がなければ部活に遅れる。
気合で頭を切り替えて、体育館へと匡がつま先を向けた――いや、向けかけたとき、案の定、物影から睦美が滑るように現れた。
だが。
(? ……あれ?)
尾田はなぜか睦美の横を通り過ぎて行ってしまった。
(人違いだったか?)
いや、そんなはずは。
目を凝らしたが、睦美だと思った彼女は顔を確認する前に建物の影に消えてしまった。