まだあなたが好きみたい
「だから、真野と尾田だよ。なんだか今日はやけにおまえのクラスが静かだと思ったら、あいつら廊下を別々に歩いてるじゃないか」
日常のことで、いまさらあらためて感じることもなかったが、彼女たちは何かにつけて声がでかいことで有名だった。
そういえば、今日のクラスはやけに静かだ。
静か過ぎた。
「ああ、なんかあったっぽいっすよ。詳しくは知らないっす」
「おまえ彼氏だろ?」
デリカシーのないやつだ。
「とうに別れてますけど」
憮然として返すと、教師はぱっと口を押さえた。
「おっと! それは失礼」
この軽薄な謝罪。腹が立つ。
だからこそ40になっても独身なのだろうが、あっけらかんとした性格で万事に飾り気がない気楽さを、男子はおおむね好いている。
事実、それは匡も例外ではなく、わりとこの手は嫌いじゃなかった。
「でもそれならおかしくないか」
とおもむろに原西は腕を組んだ。
「は? なにがすか」
「だって、とうに別れたんならここまで思い切りひがむのもあんまり器が小さいだろ?」
「え? ひがむ?」