まだあなたが好きみたい
+好きの重み
ぶつぶつ何事かをひとりごちながら、教室から日直の生徒が出てきたのは見えた。
彼が最後だったのだろう、教室は無人で、窪川の席にだけ、無造作にエナメルが置いてある。
ハンパに空いたジッパーの口から角がよれよれの教科書類が覘いていた。
ちょうどいいからあいつの電子辞書借りようっと。
隣のクラスで宿題と戦っていた睦美は周囲を見回した後、そっと窪川のエナメルを開いた。
無秩序なカバンの中は相変わらずのカオス状態で、思わず口許がほころび、そしてちょっぴり切なくなった。
彼の心にも、もう別な人がいる。
いや、とっくにいたのかもしれない。
本人がそうと認識しなかっただけで。
自慢の彼氏はもう思い出の元彼だ。
格好良くてスポーツ万能、自信家でほどよく荒っぽい窪川はみんなの理想の彼氏そのもので、その隣にいる睦美はおかげで毎日鼻高々だった。
完璧な彼氏が自分の恋人というだけですべてがうまくいくような気さえした。
そんなあの頃を思い返せば、今でも惜しい気持ちがしないではない。
けれど、それを言ったところで詮無いだけだとはわかってる。
懐かしい気持ちを封じ込み、睦美はカバンを漁る。
体操着の下に電子辞書が埋もれていた。