まだあなたが好きみたい
ファミレスで見かけた女の子だと窪川は言った。
そしてその子が好きだとも。
どうして。
こんな女の子っぽいもの、あいつが好き好んで買うはずがない。
きっと、あの子に頼まれて仕方なく持っているんだ。
冗談じゃなく、今度は彼女の気持ちを尊重して、窪川のほうが折れたんだ。
あの子の頼みなら、聞くんだ。
あの日、断られても顔に出さないよう努めて、窪川の一笑に従ったわたしを思い出す。
くやしかった。
あの子なんか。
特別可愛いってわけでもない、普通よりちょっと綺麗かな、くらいのあくまで平凡の評価を抜け切れない子。
わたしのほうがずっと可愛いのに。魅力的なのに。
それに。
あんたのことをあんなに悪く言ってたのに。
そんなに好きなの? ねえ。
わたしのことが好きだった頃よりも……?
そう思うや否や、睦美は力ずくで猫を鍵から引きちぎっていた。
無残に切れた糸の先。無理やり引っ張ったせいで猫の首が変な方向に傾いたけれど、気にしない。
スカートのポケットにしまいこむ。
睦美は教室の時計を仰いだ。今日は窪川の面談日。荷物があるのはそのためだ。
さっき出て行ったやつと入れ替わったのなら、彼ももうすぐ帰ってくる。
睦美は電子辞書を借りるのを諦め、自らのアナログ辞書をロッカーから抜き取ると、そそくさと教室を後にした。