まだあなたが好きみたい
5:その眼鏡に映るもの
植え込みの下に忍ばせておいたマスコットが消えたのを確認して一週間が経過した。
三学期がはじまると、本格的な受験モードから、学校中に妙に張り詰めた空気が漂いだした。
これが高校というものか、としみじみおもう。
その雰囲気に便乗してか、授業の雰囲気までが二学期までとはどこかちがって感じられた。
とはいえ、それはあくまで学校全体を見た場合の話であって、局所的にはその余波を一切感じさせない平和な日常を継続している人たちももちろんいる。
「先輩、チョコレート受け取ってくれるかな~?」
「もらってくれるんじゃん? だってほら、頭使ったときは甘いものでしょ? 絶対うれしーよ」
「でも渡しに行くの怖いよ~。三年の廊下、毎日殺伐としてるって話じゃんー」
「昇降口とかで待ち伏せしようよ。わたし付き合うからさ」
「心の友よー!」
まだ一月も上旬とはいえ、とかくイベントごとに熱い彼女たちは今からもうバレンタインの話で持ちきりだ。
とくに三年生に恋をしている子は今年がひょっとするとラストチャンスなため、その気合も半端じゃない。
しかしわたしには関係のない話だ、と菜々子は午後の授業で当たる予定の数学の宿題をやっつけながら、利き手じゃないほうの手でフォークを駆使しつつ弁当のおかずをつまんでいた。
「ひどいお行儀だよ、菜々ちゃん」