まだあなたが好きみたい
「仕方ないでしょ、次、当たるんだから」
「優先順位があるよ。やばいものから宿題は取り組むものでありんす」
「化学のテキスト提出もあったでしょ? そっちに時間取られちゃったの」
「ぼく、電車でやったよ?」
「あんたみたいに、隣で寝てるおっさんの膝の上にまで教科書広げて宿題できるほど、わたしは神経が図太くできてないのよ」
「かわいそうに」
「ありがとう」
うわべだけの心ない労いに、菜々子も感情のこもらない礼を述べ、もくもくと問題を解いていく。
「そこちがう菜々ちゃん」
「えっ、うそ!」
んもー、とブロッコリーをくわえたまま消しゴムをノートに走らせたとき、斜め後ろの方からクラスの近田(ちかだ)ともうひとつ、聞いたことのある声がした。
「なんだよおまえ、フラれたのか?」
「先輩に告られたからって」
「は、なんだよその理由。ふざけすぎじゃん」
「でも実際、部活の合間に水泳部の見物に来てたのも先輩目当てだったっぽいし。つか、いや、そうだったし」
「あいつ、先輩の連絡先知ってんだっけ?」
「うん。俺と付き合う前に先輩の連絡先教えたから…。まさかと思ってたけど、多分、続いてたんだと思う」