まだあなたが好きみたい
はあ、と近田は生まれつきだという嗄れた声をひときわがさつかせてため息を吐いた。
「あの二人、ちょっと声が大きくない?」
「しっ」
菜々子の席で、向かい合うようにして食事を取っている有正の位置からは声だけでなく彼らの顔まで丸見えなのだろう。
どういうわけか今日に限って再テストだ昼練習だミーティングだとこまごました予定が重なって、いつもはもっと賑やかな教室は今日はその四分の一も残っていない。
だからこそそんなデリケートな話もしやすいのかもしれないけれど、感情が高ぶっているぶん声は確かに大きい……。
菜々子は咀嚼したブロッコリーを嚥下するのと一緒に意識を手元の宿題に戻そうと努めた。
それなのに、たしなめられた有正は今度はなぜかおもむろに菜々子のペンケースからシャーペンを抜き取ると、ノートの隅にぎこちない筆致で、きのむら、と逆さに文字を書いた。
きのむら? とすぐにはぴんと来なくて、菜々子は小首を傾げた。
書き足した有正のへたくそすぎるバスケットボールを見て、あっと思った。
それってもしかして、あの木野村?
(前にわたしのことすきだって言ってくれた)
告白されたのがちょうど窪川の試合の前の日だった。
菜々子の表情から察したのだろう、有正がウィンクをして見せた。
……こいつめ。
(でも、てことはじゃあ近田と喋ってるのは、……その、木野村くんてこと?)