まだあなたが好きみたい
え、なに、聞き役は近田だから、フラれたのって木野村くんなの?
まさか、あの子から。
しかも、そんな身勝手な理由で?
夏休み明けに見たときはあんなに仲がよさそうだったのに。そんな裏切りって。
気の毒にと、菜々子は痛む胸をひそかにおさえる。
「こんなフラれ方ってあるかマジ、しんど……」
「あんまりだと俺も思うぜ。けどまあ、ほれ、元気出せ」
唸るような切ない声がここまで聞こえてくる。
いたたまれないが、声をかけてやれる立場ではない。もっとも、かける言葉もないのだが。
彼にとって菜々子は関わり合いたくない人物のはずだ。
そして菜々子自身も彼を傷つけたことを自覚している。してやれることはなにもない。
「ねえ菜々ちゃん、手が止まってるよ」
有正がメロンパンをもごつかせながら言う。
ああ、と菜々子は再び左右の手を同時に動かし始めた。
「メロンパンにウインナーって意外と合うよね」
は? 菜々子は顔を上げる。
ああ、持参しているおかずのことか。
いきなり何を言うのかと思った。
有正の昼食はおおむねコンビニのメロンパンと父親が持たせてくれるおかずの詰まった愛情たっぷりタッパーの組み合わせだ。
新たな発見に喜色を浮かべる有正に、もう飽きたんかいと菜々子は胸のうちで突っ込む。