まだあなたが好きみたい
唖然と口をあけたその顔がみる間に赤くなっていく。
菜々子は辟易とした表情のままゆるく首をかしげ、
「まあ、あなたはそう言えるだけの大層なご活躍だったから無理もないだろうけど。でも、そういうふうに言うのはやっぱり感心しな―――」
「ったりまえだろ!」
一転して上機嫌な声が菜々子の鼓膜をつよく揺らした。
「俺は入学前から期待のルーキーとしてユニフォームもらってんだ。わかってんじゃねぇか! 理屈っぽくて口だけ達者な万年処女じゃなかったんだな」
彼の科白にぎょっとして菜々子は周囲にすばやく視線を走らせた。
よかった、誰もいない。
「下品なのは顔だけにしたら?」
限りなく声を押し殺し、菜々子は凄んだ。
「ああ? んだとブス」
道の真ん中、若い男女が力の限りに睨み合う。
「そういう口の利き方しかできないから中学で全国逃すんだよ」
「関係ないだろ、俺の口の悪さなんか。あいつらが俺の足を引っぱったせいだ。俺の力は全国でも十分通用してた」
「だから? あなたがしてることは団体競技でしょ? そうやって自分以外の人間を貶してばっかりだから大事な場面でうまくひとつになれないんじゃないの?」
「なってただろ。今日だってパスは俺に集中して、それで勝ったんだからな」