まだあなたが好きみたい

「すみません、大丈夫ですか」

「あ、はい、大丈夫です。わたしのほうこそごめんなさい。携帯見てて気づかなくて。ダメですよね。お怪我、ありませんでした?」


菜々子の手を借りて立ち上がった彼女の顔を見て、菜々子は、あれ、と目を瞬いた。


(どこかで見たことがある気がするんだけど)


遠い話じゃない。

それもつい最近。

あれ、でもどこだっただろうと菜々子は記憶を遡る。

しかしそれは早々に打ち切られた。

彼女が携帯の着信に気づいたとき、吊られて視線を落とした菜々子の意識が、猛烈にあるものへと吸い寄せられた。


(なんで、それ)


彼女の携帯に、菜々子が先日窪川に送ったはずの黒猫のマスコットがぶら下がっていたのだ。

取りつけやすいように付け替えたと思われる強いピンクの紐が対照的でよく栄える。

まさかと思いながら、心臓の鼓動が早くなったのがいやでもわかった。


(偶然あいつと同じ誕生日ってことは、あるでしょ)


そんなやつ、この世にごまんといるのだから。なにもあいつに限ったことじゃない。


……だが、そんな彼女の否定も虚しく、疑惑はほぼ間違いないという確信を持って現実に示された。

女は携帯を操作すると、菜々子に一礼し、嬉しそうな声で電話に出た。


「あー、窪川? どうしたの?」

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