まだあなたが好きみたい
くぼ、かわ……? 菜々子は耳を疑った。
それって窪川匡のこと?
菜々子ははっと目を見張った。
じゃあこの人が、窪川の彼女?
夏の大会のとき、会場でいちゃつきまくってた、あの。
そのときの情景が今でも思い出せる。
同じ制服。親しげな口ぶり。
見覚えがあるという漠然とした感覚がそのときのものだとすれば。
そして、極めつけの黒猫のマスコット。
……彼との接点を思わせるものは揃っている。
菜々子は我知らず小刻みに震えていた。
そん、な。
(あいつに彼女がいることは知ってたけど、なんとなく、もう終わったのかって、勝手に思ってた……)
待ち伏せとか、人目を憚らない親切とか、
キス、とか。
そういうことをするから、てっきり。
すべてはわたしの勝手な思い込みだった。
完全に思い上がっていた。
(まだ、つづいてたんだ)
菜々子の視線は自然と彼女の携帯、その黒猫に注がれる。
あれはきっと菜々子が送ったものを彼女にプレゼントしたのにちがいない。
何だ、と菜々子はため息交じりに思う。
(あのとき、黒猫を物思うように見つめてたのは、自分が欲しかったんじゃなくて、彼女に送るのに買う勇気がなかったから、察して欲しかっただけだったのね)