まだあなたが好きみたい
そういうことなら合点がいく。
あのときもまさかとは思ったのだ。でも、そう見えたから。
菜々子は楽しげに話しかける彼女をすくうように見つめた。
窪川の隣に並ぶに相応しい見目の良さ。
さきほどの、完璧かつ思慮深い受け答え。堂々としたものだった。
そのいずれもわたしにはないものだ。
平凡な見てくれ。驚けばまんまとおどおどして、とっさの言葉しかかけられない機転のなさ。
彼女と己を引き比べ、自己嫌悪に陥るばかりの菜々子はここにいることに耐えかねると彼女に軽く頭を下げ、不自然なほど速い足取りで近くの路地に入った。
そのまま彼女の声の届かないところまでペースを落とさず歩いてきて、菜々子ははあと盛大に息を吐いた。
(やっぱりただの気まぐれだったのね)
何もかも。
そしてそれは――彼は否定していたけれど、内心、どこかで仕返しの意思があったのだろう。
そういうところから派生していたものだとすればますます納得だった。
長らく据わりの悪かった彼の言動に対する疑問がようやく解消されて、嬉しいではないけれど、これでもう完全に吹っ切れるなとは思う。
菜々子は暫しその場に佇み、気持ちを切り替えようと努めた。