まだあなたが好きみたい
雨が降る。
梅雨だ。
今日は比較的気温が低いので過ごしやすい。それでも湿気はレディーの天敵で、とくに菜々子(ななこ)のようなくせの強い髪質は弱った。
おさえてきた前髪がふわふわ浮いている。放課後ともなると全体が午前中の3割り増しのボリュームで目も当てられない。
引っぱったところでどうにもならないとわかりつつ、手で撫でつけて、不格好なそれを慰め的にカバーしているとき、とつぜん、目の前に男の子が飛び出してきた。
「よ、吉田さん」
というのはわたしの苗字だ。真一文字に結んだ唇がむずがゆそうにうごいている。
落ち着きのない不安げな佇まい。緊張が伝わってくる。
見覚えのあるそのひとは、次の瞬間、いきなり用件を切り出した。
「おれ、隣のクラスの木野村(きのむら)って言います。知らないと思うけど……」
知っている。
木野村のクラスは体育が一緒で、運動神経のよい彼はその見栄えのする顔立ちも相まってよく目立つ。
そのうえムードメーカーなところがあって、いきなりどっと笑い声が聞こえたり、賑やかだなと思って振り向くと、その輪の中には必ず彼がいる。
したくなくても記憶される方が自然だった。
でも、言うタイミングを見誤った。
「ていうか、その、つまり、俺、吉田さんのことが、その、す、好きなんです…っ」