まだあなたが好きみたい
気を紛らわすのに菜々子はぐるぐるとコーヒーをかき混ぜながら、そういえば、と話題を変える。
「近田に聞いたとき、甘党なんて意外だった」
「そう? 俺すごい好きだよ。家でドーナツ揚げたりするし」
「うそ。すごい。じゃあパイとかも焼くの?」
「市販のなら。中身は自分で作るよ」
「すごーい。わたし作ったことないよ。外はもちろんだけど、中身も。筋金入りだね」
「そこまでじゃ。吉田さんは料理とかしないの?」
「しそうに見えるでしょ?」
「うん」
「よく言われる。でもわたし実は家事ってほとんどできないの。料理もだめ、掃除も雑、皿洗いも洗濯物干すのも遅くって。手伝われるほうがかえって手間っていっつも言われる。いやでしょ、こんな女子」
菜々子は自嘲気味に笑った。
情けないが、本当のことだ。
有正はあれでなんでもそつなくこなすのだが、菜々子は万事に不器用でどんくさい。
けれど、生まれ持った素朴な平面顔のせいで、不本意にもしっかり者というイメージを抱かれやすい。
有正のお守りなんかをしているから特にそう思われがちだ。