まだあなたが好きみたい
菜々子は面食らった思いを引きずって、呆然としたままそう言った。
言ってからハッとして、菜々子は口を押さえる。
「いっ、いいよ、謝らないでよ。それならそれでいいんだ。俺はその…、なんていうか、いちどややこしくなった人とこうやってまた仲良くできたことが素直に嬉しいんだ。だからやっぱり来てよかったよ」
木野村は屈託なく笑った。
吊られて、菜々子も徐々に口元をほころばせる。
木野村の笑顔には、人を惹きつけるちからがある。
「わたしもはじめは来づらかった。近田に言われた後、やっぱり断ろうって思ったの。わたしに会いたくないだろうって思ったし。でも今はちがうよ。わたしも同じように思ってる」
「そっか」
菜々子と木野村は笑い合った。
そうするうち、自然と胸の中のしこりが消えていく感覚に、菜々子は心の中で苦笑した。
やっぱり、慣れないことなんてするものじゃない、と。
わたしに、人をだまして、それで何も感じずに日常を過ごす度胸なんか、はじめからなかった。
木野村と誤解が解けて、こんなにも心が軽い。
だからだろうか、なんてことないケーキが、今日はことのほかおいしかった。