まだあなたが好きみたい

ちょうど席が空いた。つま先を向けると、そうはさせまいと眼鏡が菜々子の手首をつかむ。


「待ってよ。穏便に済ませるなら話し合いは付き物だろ? 勝手に解釈されちゃ困るよ」


菜々子は片眉を上げる。


「話し合い? そんなのする義理がわたしにありました?」

「俺が君に興味があるっていうのは、それにあたらないわけ。それなのに君は自分にはないの一言で一刀両断したよね。それってあんまりだろ」


そうくるか、と菜々子は思った。

たしかにそれだと一応、筋は通る。

眼鏡の奥の目が強い輝きを持った。勝機を確信したのだろう。

悔しいが菜々子はシートを諦め、仕方なく耳を傾けることにした。


「君って、桧葉有正って男子と、えらく仲がいいだろ?」


思いがけない名前だった。

にわかに菜々子の目の色が変わる。


「それが?」


興味の幅は有正にまで広がるのか。

自分ひとりならともかく、有正のことと聞けば捨て置けなかった。


「君に興味があるのは、彼にそれ以上の興味があるからなんだ」

< 307 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop