まだあなたが好きみたい
*

『――それでその子、つい一週間前、妊娠が発覚したんですって』

『はあ? 窪川のってやつのことか?』

『ちょっとあなた、なに言ってるの、人の話はちゃんと聞いてよ』

『聞いてるよ。聞いてるけど、あんまり突飛で頭が着いていかないんだ。もういちどはじめから教えてくれ』


ドアを隔てたリビングから、よもや眠っているはずの娘が聞き耳を立てていることなど露ほども疑わず、両親は母親がその日学校で聞いてきた一連の衝撃的な出来事について話していた。


妊娠。


それは菜々子も後日担任の口から直接聞かされたことだが、まさかそこまでとは思わず、言ってしまえばもっと安易な気持ちで立ち聞きしたのだ。

妊娠なんて当時の自分にはそれこそ保健体育の話だった。

どうやって子供ができるのか、その具体的な方法について知ったのだって、実のところその事件が終わった後のことである。

とことん初心で、夢見がちで、ばかみたいに幼稚だった。

14歳の妊娠なんて言葉も最近はよく耳にもするけれど、現実には漫画やドラマの世界という認識でしかなかったから、母親の口から飛び出たその言葉がすぐには馴染んでこなくて、ある程度の時間が経ってようやくその言葉の重みを理解すると、思考はおろか、身体の芯まで凍りついたのを覚えている。



……それは、ひとつの賭けから始まったことだった。


当時、菜々子のいた学年で、やたらと幅を利かせていた四人組のグループがあった。

< 309 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop