まだあなたが好きみたい

バスケ部の窪川、サッカー部の多村、テニス部の坂谷、そして、写真部の幽霊部員、中田。


アイドル的存在だったわけじゃない。

見栄えがしたのは窪川くらいなものだった。

多村は土台は悪くないが、年中にきびだらけだったし、坂谷は狐っぽくてゴマすりが上手な金魚の糞だった。

とりわけ評判が悪かったのが中田で、彼はグループにいたりいなかったりした。

よくない噂が絶えず、大人たちからの注意に事欠かないやつで、窪川他の仲間うちでさえ中田には一目を置いていたという話だ。

中田が発案者だという意見が多かったようだが、先生たちが話を聞いたときはやはりというか、首謀者同士でなすりつけの責任逃れがあったらしく、誰が最初に言い出したかは未だなぞのままである。


あの頃、菜々子のことを好きだという男子生徒がいた。


その生徒は脳に若干の障りを抱えており、ホームルームの時間や給食の時間を除いては別のクラスで授業を受けていた。

その子が菜々子のことを好きだという噂は一年生の頃から囁かれていて、ことあるごとに男子にからかわれていた。

でも彼は思いを周囲に打ち明けることはしても、自らはシャイな性質で、菜々子と直接の会話を交わしたことはなかった。


あの、告白のときまでは。


『ぼく、吉田さんのことが、好きなんだけど』

< 310 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop