まだあなたが好きみたい
そう言われ、当時から彼にほのかな憧れを抱いていた菜々子は、そのとき不謹慎なほど胸が高鳴った。
そういうものの考え方もできる人なのかとは思っていなかったから。
しかも、
『俺もさ、実は吉田のことが前から好きだったんだよね。あんま話したことないから嘘っぽく思われるかもしれないけど、でも、マジだから』
窪川は言った。
意中の女が告白されて、不覚にも焦ったと。
他のやつらだったら気にならない。
でも、ある種とくべつな彼を、菜々子はちゃんと自分と対等の目線で接している。
それが彼の不安を掻き立て、いま言わねばという気持ちになったと。
高飛車で高慢な彼に、相手が誰であろうと勝ち目がないなどという劣等感や謙遜なんかこれっぽっちだってあるはずないのに、今ならそうだと見破れるのに、当時のわたしはまんまとその言葉に騙された。
愚かしくも、彼に抱いた憧憬が視野を狭くして、疑って然るべきの夢想にすっかり逆上せてしまったのだ。
菜々子は特別学級の彼の告白を放置して、窪川を選んだ。
それが悪夢のはじまりだった――。
『賭けは俺たちの勝ちだな』