まだあなたが好きみたい
どうしてか忽然と消えてしまった黒猫のマスコットを思う。
そしてふと泣きたくなった。
面談のあの日、教室に戻ると、鍵につけていた黒猫が消えていた。
力ずくで千切られたと思しき無残な糸の先から、誰かに盗まれたのだろうとは容易に察しがつく。
その直前までは確かにあったから、おそらく彼の面談の時間を見計らって計画的に盗んだのだろう。
周到なやり口に、怒りを通り越して呆れる。
前から似たような被害にはたびたび遭っているから、今さら驚くことではないけれど。
タオルが消えたりとか、文房具が消えたりなんてしょっちゅうだし、だからといってそれがいじめの類ではないとわかるのは、教科書などのあいだにいつの間にか手紙が挟まれていたりすることがあるからだ。
黒猫の件も大方そういうファン、取り巻きの仕業だろう。
だからといって許されることではないが、騒ぎ立てるのも狭量だ。
ぬいぐるみを愛玩していることがばれたら一巻の終わりだとの思いもある。
だが……。
嘆息が洩れる。
これまでもずっと目を瞑ってきたが、今回ほど身に堪えた盗難もなかった。