まだあなたが好きみたい
ひときわ厚い雲が流れて、もとより薄かったふたりの影を瞬く間に呑み込んでいく。
初夏とは思えぬ、身震いするような冷たい風が二人の間を吹きぬけた。
交わる視線に火花が散る。
目の前の顔が小刻みにふるえていた。
色の抜けていた頬にみるみる血が戻り、ついさきほどまで駄々っ子のようだったその顔が徐々に憤怒の形相へと変わっていく。
大事に大事に守りあたためてきた矜持をずたずたにされたのだ。
剥き出しの憎悪が菜々子の肌にびしびしと打ちつけてくる。
斬りつけるような眼差し。
彼はどうにか声を絞り出し、
「……おまえ、まさかそれを言いたくてわざわざこんな手の込んだことしたのかよッ」
ふざけんのも大概にしろ。