まだあなたが好きみたい
後ろめたさや身の置き場所に窮する一方、自分は結果的に水際で逃れたのだから関係ないという不遜な気持ちとが対立することで、心はどんどん擦り切れて、荒んで、どうにも身動きの取りようがなくなったのを覚えている。
だからこそ放っておけなかった。
有正はわかりやすい。
日ごろ気持ちの浮き沈みのしない彼だからこそ、追い詰められているときのこのどうしようもない脆さ。
なにがあったのだろう。
睦美と同じ香水の匂いも気になるところだ。
さして値の張るものではなかった気がする。
彼女は専門店で買い求めていたが、同じものを俺は薬局で見たのだ。つまり、誰でも気軽に買える香水ということである。
だからといってそれだけのヒントで睦美がかかわっていると決めつけるのは乱暴だけれど、尾田と仲違いしたらしい彼女は近頃どうにも元気がなかった。
だからだろう、彼女のことを思うと、否が応でも頭の中をちらついて落ち着かない。
(でも、まさかな。だってあいつは今、好きなやつがいるって言ってたし……)
と思ったそのとき、匡の中にひらめくものがあった。
(待てよ。尾田が好きなのがたしかこいつのはずだったよな)
でもあいつにはそもそも気になるやつがいて、そんでもって、その頃は尾田はまだ睦美と仲がよかったはずで、そしたら、もしかすると、尾田に相談をしていた可能性も――
いや、絶対そうだ。