まだあなたが好きみたい

頬を切ったときの傷はすでに血も乾いてすっかり固まっていたけれど、パジャマ姿の母はこれを見るなり、血相を変えて救急箱を持ってきた。


「消毒液よりフツーの飲み物くれよ」

「今何時だと思ってるの」

「高校生なら普通だろ」

「電車通学ならね。あなたは地元でしょ? 部活は8時には終わったって聞いたのに」

「早く終わったからこそ、いろいろ付き合いってもんがあるんだよ――痛ッ」


怪我人の頭を平気ではたく母である。


「生意気なこと言ってんじゃないわよ」


匡はネクタイを緩めながら、ひとつ息をつくと、


「悪かったよ」


と彼にしては殊勝に詫びた。


「次から遅くなるときは連絡するから」

「破ったらその日の夜は野宿だからね」

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