まだあなたが好きみたい
救急箱の蓋を閉めると、すっぴんの母親がやけに気難しそうな顔で匡を見た。
おお、と匡は感じ入るようにその顔を見つめ返す。
「母ちゃん、シミ増えたな――痛ッ」
今度はグーが落ちてきて、ほんとうに目に涙が滲んだ。
「誰のせいだと思ってんのよ」
「わかってるよ! ちょっとした冗談だろ。それなのにいきなり拳骨かよ」
「あんた、また妙な連中とつるんでるんじゃないでしょうね」
声をひそめて母は言った。中学のときのあいつらのことを指しているのだ。
「……ちげぇよ」
「あんたがちがうって言っても、本当に大丈夫かどうかはわからないでしょ」
「ほんとに大丈夫だ。もう失敗しない。俺だってあんな思いは二度とごめんだからな」
母親は額に触れながら、中学の頃のことを思い返しているように険しく眉根を寄せた。
そしてその目は父が寝ているだろう一階の寝室へと向けられる。
「お父さん、あんな人だから、何があってもあんたに厳しく言わないけど、あのあと、本心ではすっごく落ち込んでたんだからね。そのへんちゃんと理解して、付き合う人を選びなさいよ」
「わかってんよ」
どうせ、俺の人を見る目なんかたかが知れている。
中学での失態で痛いほど自覚したことだ。
だから高校では広く浅くを心がけ、中学のような深入りはしないと決めた。
楽しくても、部活が忙しいといえば回避できる、そう逃げ道を作って。
(親父は母ちゃんみたいにずけずけ物を言わないからな)