まだあなたが好きみたい
昔からそうだ。
気が優しくてお人よしだが、どうにも口下手で要領が悪く、そのせいで出世コースを逃してからというもの、これまでの優しい親父に輪をかけて、40半ばにして好々爺のように角のない人間になってしまった。
普通、そういう、己の矜持を踏みにじられるような窮屈な生活を送っていると、ちょっとのことで癇癪を起こしたり、感情的になったりしそうなものだけれど。
だからこそ、匡は子供の頃からそれがちょっと不満だったりする。
母はそんな、不器用だが真摯な父に惚れたそうだが、男の俺からすると、正直、好感よりもダセェという感情が先に立つ。
中学のあの事件のときも、親父は俺を責めなかった。
咎めなかった。
殴りさえしなかったときはどうしてか匡のほうが頭に来て、親父にとっての俺ってなんなんだと、思い込み激しい女子中学生のような非難をしそうになったのを覚えている。
母ちゃんは、本音の言えない父の代弁者になっているつもりなのだろう。
人を貶めたり悪く言えない性質の親父は、きっと、息子の過去に恥辱を覚えながら、それでも付き合う人を選べなんて言わないのだ。