まだあなたが好きみたい

「夕飯は?」

「食べてない」

「はいはい」


雑穀飯にわかめの味噌汁、あんかけのかかった厚揚げとアジの一夜干の火取ったものが食卓に並ぶ。

いずれも湯気の立つ熱々で、匂いをかいだ途端、匡は猛烈に腹が減っていることを意識した。

常識では考えられない光景を目の当たりにして、食欲を忘れてしまっていたのだと思う。


「皿はシンクに入れといて。洗われるとうるさいから。食べたらお風呂、入っちゃいなさいよ」


テレビもつけず、匡は黙々と夕飯を食べる。

ひとりで干物と格闘するのがこんなに虚しいものとは。



そのへんちゃんと理解して、付き合う人を選びなさいよ


唐突に、母親の言葉が思い出されて箸が止まる。

睦美のことを言ってるわけじゃないとすぐさまわかったが、図らずも言葉だけを追えばぴたりと当てはまるところが母親という人種の恐ろしさだと思う。

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