まだあなたが好きみたい
「人が下手に出りゃあいい気になりやがって。こういうのを弱いものいじめって言うんだぞ」
「は。なに? 弱いもの、なんですって? 人のこと言えた義理?」
「んだと―――ッ……」
言いかけて、彼は口惜しげに唇を引き結んだ。
まさか、だ。
言えるとは言えまい。少なくとも、わたしに向かっては。
「一年以上も前のこと蒸し返してたのしいのかよ……ッ」
代わりに彼は苦い顔つきでそう吐き捨てた。
「別に、蒸し返すつもりは……。だってそれは全部あなたが勝手に……」
思いがけず彼自ら避けていたはずの核心を口にして、菜々子は内心うろたえた。
「勝手に勝手にうるせぇよさっきから何度も! 応援だかなんだか知んねぇけどな、おまえの事情がどうあれ、おまえが俺の前に現れるだけで俺にとっては十分大事件なんだよ。おまえの存在が鬱陶しくて鬱陶しくてしゃあねぇんだ! おまえもすこしは俺のことを考えろよ! どう思うだろうかって、俺の気持ちを斟酌しろよ!」