まだあなたが好きみたい
6:歪み、つばさ…すこしの勇気
その日、菜々子は有正の住むマンションを訪れていた。
有正は昨夜、夜遅く家に帰ってくるなり高い熱を出して倒れたのだ。
病院が開くと同時に駆け込んだが、結局午前いっぱいかかって点滴を打って帰ってきた。
今もすごい汗をかき、真っ赤な顔をして、まぶたもろくに開けられない幼馴染を菜々子は沈痛な面持ちで見つめる。
「……ごめん、有正。わたしのせいだね。わたしが無理言ったせいだね」
自分の心の弱さが憎い。
今の有正の様子を見たら――たったひとりの幼馴染を傷つけることに比べたら、今の生活がどうにかなるかもしれないなんてわけもないことだったのに。
「菜々ちゃんが謝ることじゃないの。ぼくが、引き受けた時点で、責任はぼくひとりにあるんだから」
熱に浮かされた眼差しはおぼつかず、涙が滲んで、散りばめた宝石のように光がまたたく。
ひねくれた物言いをしても、彼が実は誰よりも無垢で純粋なことを菜々子は知っている。
あんなのはすべて、幼い自分を守るために作ったかりそめの衣でしかないのだ。
本当は、その生意気な仮面の下に、悪事の一端を担えるほどの大胆な心意気なんてじつはこれっぽっちも持ち合わせていないとわかっていたのに。