まだあなたが好きみたい


……これは、さすがに思慮が足りなかったかも知れない。


考えが及ばなかったわけではなかった。



けれど、彼にとって今日という日が特別であるように、菜々子にとっても今日を逃せば次にいつ、彼と、表面的にはごく自然な偶然を装って再会できるのか、わからなかったから。



それでもやはり勇み足だったかも知れない。



彼の苦しげな表情に、にがいものが菜々子の口に広がった。



やっぱりこんなことしなければよかった―――。



……しかし、そう沈んだ傍から、悔やむ自分が、胸が爛れそうなくらい悔しくおもえて、菜々子は唇を噛む。



わたしは、正しかった。

いや、正しいとか正しくないとか、そんな理屈ではかれることじゃない。


そもそも、正しくなかったなんて、一瞬だって思いたくはないのだから。




(でも……)




「俺の記念すべき初陣に顔出して、図らずもとはいえ俺を動揺させるなんざ嫌がらせもいいとこだろ。この性格ブス! こんな簡単なことでさえ気が回せないなんざ女失格だ」



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