まだあなたが好きみたい

やって叱責される徒労がどうとか、そんな白けた気持ちではない。

単に、こういうことに対して臆病な性質(たち)なのだ。


それだから、せめても悪いことといったら、自転車に乗る上級生の手放し運転に憧れて真似をしたことくらい。



誰かに見られたら。



でも、ひっそりとはいえさしたる躊躇もなしに教えるということは、地元の人なら誰しもが暗黙の了解で使っているということなのだろう。



ひときわ強い朝日が目を刺して、菜々子は事態の緊迫さを思い出した。



バスが来ちゃう。


ためらっている暇はなかった。



しかし次の瞬間、菜々子は思わず息を呑んだ。



前方から、砂利の上を滑る不躾な音がして、いまだまどろみの中にある住宅地の静寂を破った。



< 62 / 432 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop