まだあなたが好きみたい
唖然とした。
たしかに遮断機が下りた音はしないけど。
そうこうするうちに窪川が線路を越えた。
来る。
迷いのない足取りは速い。
やがてこちら側の領域に突入したとき、なにを思ったか、菜々子の脚が勝手に動き始めた。
すぐ横を窪川が通り抜ける。
心臓が破裂しそうだった。
強いて息を殺し、砂利を踏みしめ、線路を跨ぐ。
一心に歩いてついに反対の道に出てしまったとき、菜々子は自分のしたことの重大さに戦くと同時に、馴染みのない甘美な高揚がじわじわと耳から首のあたりにかけて広がるのを感じていた。
(わたっ、ちっゃた……)