まだあなたが好きみたい
人の気持ちは変わるもの
昼休み。
ごった返す売店のレジの列にひと組の男女を見つけた。
木野村と、顔だけ見たことのある同学年の女の子。
可愛い財布を持った小柄な子。
背伸びして彼の耳に口元を寄せる。
足りない分を補うように顔を傾ける彼のさりげない優しさがほほえましい。
ごく自然な目配せは、完成されたふたりの世界を象徴している。
単に、混雑しているから会話をするのに近づかざるを得ないというだけの色気のない雰囲気ではとてもない。
――あれから、木野村との間にこれという進展はなかった。
そもそも菜々子自身、望んではいなかったことだから、むしろこれでよかった。
というのは別に虚勢じゃない。本心だ。
もっとも彼も口で言うほどにはわたしを求めてはいなかったのだろう。
……というのはわたしの希望的観測もだいぶと含まれてはいるけれど、彼があの子といっしょにいるところを頻繁に見かけるようになったのは夏休みが明けた9月、文化祭をまたいだ前後のことだ。