まだあなたが好きみたい
「――あれ、もしかして、吉田じゃない?」
駅のホーム。
みんな部活で、滅多に地元の友だちと下校時間がかぶらない菜々子の帰りはおおむね孤独だ。
その孤独を携帯に紛らわせれば容易いのだろうけれど、ゲームも嗜まなければネット上の友だちすら持たない菜々子の利用頻度は同世代のそれに比べてきわめて少なく、どちらかといえば従来の、話せればいいといったアナログ人の感覚に近い。
それだから手持ち無沙汰な時間、彼女の視線は自然と足元か、反対側の代わり映えしない看板広告に向けられている。
帰ったらまずは何をしようかなんて思案にふけっていたところ、いきなり声をかけられた。
知っている声だがはて誰だっただろうと思いながらおずおずと振り返ると、そこには中学で一緒だった東(あずま)が、どこか自信なさそうにわたしをのぞきこんでいた。
「東くん、だよね。ひさしぶり。――そっか、東くん北鞍高校だっけ」