まだあなたが好きみたい
折しも電車がホームに入り、菜々子がおどろいて振り向くのと同時に振動に体を取られる。
「おっと!」
よろめいた菜々子を東がすかさず支えた。
東の手が緩く食い込む。
東のそばかすが見えた途端、菜々子はぎょっとして身を引いた。
「ご、ごめん。痛かった?」
慌てた東がそう聞いたが、菜々子は黙って首を横に振ることしかできなかった。
目の奥に残る淡いそばかすがちらついて、顔が熱い。
ちょっとの間、互いに顔が見れなかった。
ドアが閉まり、発車してようやく、菜々子はまともに声が出た。
「そ、それでさっきの続きだけど、……見てたって、なにを?」
「あ、ああ。それは、有生と一緒に乗り降りしてるとこ。時間が合うとき、たまにだけど。いーなーって。そしたら今日、会えた」
耳を赤くした東の声がにわかに弾んだ。
落ち着いたかに思われた心臓がまたしてもうるさく騒ぎ出す。
(会えた、って)
また、簡単にそんなことを言う。
言ってくれる。
どうしていいかわからず、菜々子は気まずい顔を横にそむけた。
なにしろ慣れていないのだ、そういうことに。
わたしを女として見て、気持ちを高揚させてくれる科白を聞くなんて。