まだあなたが好きみたい
言いたいことを言えと、いっそはっきり言いたいけど、それを言うのはさすがにはばかられた。
そんなこと言ったら、今以上に亀裂が走って、取り返しがつかなくなるのは目に見えてる。
それが怖いというより、今後を案じて飲み込んでやっているのだ、俺は。
帰路をいつものようにひとりで歩きながら、匡は深く息を吐いた。
たしかに今日の結果は惨憺たるものだった。
普段なら、あんなケアレスミスは絶対にしないと誓える。
ふと、匡は思った。
ということはつまり、裏を返せば、今日ほど滅多な日もなかったわけだ。
だとすれば今日は、彼らにとって、ちょっとしたチャンスだったんじゃないか。
たとえば、
今日どうしたの?
とか。
こんな日もあるよね、とか。
それすら言わないんだ。
垣根が低くなっていたはずの今日でさえ――。
匡はまぶたを閉じた。
眉間にシワが寄る。
悔しさがこみ上げて、自分にがっかりした。
何かを安易に期待した。
今となってはすべてが無意味なことだというのに。
一瞬とはいえ、時間の前後を忘れて夢を見て、何も起こらなかった現実の今に戻って、身動きができずに立ち尽くしている。
そんな自分に心底嫌気がした。
息の白さが闇に際立つ。
路地に流れ込む風が、目に沁みた。
……なんか、すげえガキっぽいこと思ってるな、俺。
失笑する。
たくさんの先輩に囲まれて、話す相手には事欠かないのに、なぜこんなにも自分の立ち位置に迷子にならねばならぬのか。