HとSの本 ~彼と彼女の話~
昼休み

彼の昼休み

 その子は、
 何処にでもいる
 普通な人でした。



「物好きね……あれがそうよ」

 初めは
 ただのお節介だった。

 いじめだとか、
 独りだとか、
 なんて事はない自己満足。
 ただの欺瞞。
 それでも自分は、放っておけない人だと思いこみたかった。
 あんな人になりたいと思ったから、見過ごしたらいけないんだと思いこんだ。



 ――悪魔の子――



 そう呼ばれる人間が、この『白い園』にいるというのは『外の世界』でも有名だった。
 入学したばかりの自分が、話題の中心となっているそれが耳に入るまで時間はかからなかった。

 仮に、
 その人物が
 悪魔なのだとしたら――

 そう思うと、
 いてもたってもいられない。

 案内してもらった場所は園で最も縁がない裏の庭。
 庭はいくつもあるがそれは全部校舎の内側にある。裏庭なんて手入れも行き届いていない、荒れた地となんの変りもないのに。

 彼女は確かに、そこにいた。

 校舎間を繋ぐ渡り廊下から知らぬ学生は指差した。

 そこに悪魔の子がいる、
 あとは一人で何とかしなさい、
 さっさと何処かへ行ってしまった。

 今の時間は昼休みだ。別にそこで何を食べていようと、誰といようと、個人の勝手だろう。

 けれど、
 そこにいた彼女は、
 どれにも当てはまっていなかった。

 裏庭に聳える楠、その周辺だけは整えられていた。
 余分な雑草も、捨てられたゴミも、汚いなどと思える風景は何もなかった。
 そんな世界の中心にいる、仄かに紅い翼を持った幼い少女。

「…………よし」
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