HとSの本 ~彼と彼女の話~
 予報では雨が降ると言っていない。
 だから当然傘なんて持って来てはいなかった。

 高い窓の外には灰色の雲。
 青い色を覆い隠してしまう天窓。

 お昼を告げる時間が訪れようとも、雨がやむ事はなかった。


「…………どうして」


 雨が降っているとわかっているはずだ。
 もう一時間も前からの豪雨。

 雨音がここまで聞こえてきそうな激しさなのに、

 人っ子ひとり出歩かない大雨なのに、

 ……どうして彼は。


 そこで座っているのだろう。


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